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help RSS 広津柳浪・覚書き/河内屋・黒蜴蜒

<<   作成日時 : 2007/04/19 18:38   >>

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「河内屋・黒蜴蜒他一篇」・広津柳浪著(岩波文庫/骨ぬすみ併集)

広津柳浪と対比される作家に泉 鏡花がいます。鏡花も柳浪と同じ頃、「外科室」、「夜行巡査」、「義血侠血」など残酷な作品を書いています。極端な性格の登場人物は同じですが、鏡花の場合は義理とか人情、愛のために自ら不幸に向かっていく傾向があります。鏡花独特の美学が非現実的物語に結晶した時、極端な傾向の作品になると思います。柳浪の場合は社会とか境遇が不幸に導きます。そして登場人物の客観的描写に特徴があります。
鏡花がある思想のもと、作品を書いたということで評価が高いのは当然でありますが、柳浪が低いということはないと思います。社会の底辺に目を向けたことは高く評価されるべきだと思うのです。そして何より読みやすいということは第一にあげることです。硯友社の紅葉や鏡花の美ぶん調、あるいは鴎外露伴の漢文読み下し調に比べ文章の調子がすっきりしています。物語の構成力、文体において柳浪の天分は鴎外や紅露におとりません。
むしろ柳浪の作品がほとんど目にふれる機会がないのを不思議に思います。
「河内屋」(明治29年・「新小説」第三号)
明治時代は外見は近代合理主義でありますが、人間を支配する手段として前時代の封建主義を受け継いでいました。人は家制度とか家父長制度に拘束されていました。
したがって個人の意思だとか、希望だとか恋愛などは儒教的道徳によって抑圧されます。
「河内屋」は封建主義の制度下にある家の問題点を明るみにだした作品です。
登場する一家の複雑な関係と社会制度がからみ合って陰湿な物語になっています。
全編、登場人物達の鬱屈したエネルギーが会話や内面の描写に漲っています。最後に溜まったエネルギーは爆発します。
おどろおどろしい物語の背景に社会制度の欠陥を盛り込んだ傑作だと思いました。
この作品は登場人物の心理描写が見事であります。そして作者が心理を解剖しないところが事件を真実らしく見せています。これはのちの漱石と違うところでありませう。露伴は「河内屋」の文章について柳浪のよい所を言い当てています。
すらすらとして嫌味のところ無く、絢爛といふべくもあらざれど、さればとて乾枯と云ふべくも無く、底光りするといはば云ふべきものにて、読み行く中に目を射るやうなる奇抜勁抜の句に逢ふといふにはあらざれど、知らぬ間に作者が設け出したる情景の中に誘ひ入れられ、頓てまた作者が与ふる情景に卒然として逢はしめられて、ハッとも思はせらるれば、ホッとも思はせらるることあるは、先以って我が敬服するところなり。※
※ 「めざまし草」明治29年10月号の匿名合評「雲中語」/岩波文庫「河内屋・黒蜴蜒他一篇」解説本間久雄氏の文章に収録

「黒蜴蜒」(明治28年・「文藝倶楽部」)
人のよい大工與太郎とおとなしい妻お都賀、意地悪な與太郎の父吉五郎が織り成す貧乏長屋の悲劇。舅の度重なる仕打ちに耐えたお都賀でありましたが、ついに毒殺を実行します。
貧乏が人の心までも貧しくさせています。追い詰められた人間が究極の手段を実行するというのは悲惨であります。これなどは境遇がその人を追い込んでしまった物語です。柳浪の作品は会話が多いです。永井荷風も指摘していることですが、血の通った会話は物語を引き立てていると思います。舅の罵詈雑言は見事でありました。
社会とか境遇が人を不幸にする柳浪の作風は憐れみと凄惨が同居しています。

明治期は個人の意思によって自由な未来を築けませんでした。表向きの近代化の裏に旧時代の枠組みが強固に個人を支配していました。封建主義がいかに人間を窮屈にしていたか、
義理人情が自由への足枷になったことか、そして貧乏が夢とか希望を喪失させたことか、柳浪は下層社会を悲惨に書くことによって明治という時代のどうしようもない現実を露わにしたと思います。私は柳浪の作品がもっと世にでることを希望します。

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