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寺山修司著・花嫁化鳥
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作成日時 : 2008/06/20 19:15
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「花嫁化鳥」・寺山修司著(角川文庫)
これは力の入ったエッセーだ。寺山のエッセイは現代社会のイロニーであり戯画であり、作者自身の自虐がそれとなく仕込んである。「花嫁化鳥」では、そういったものが薄れた分、詩人寺山修司のよいところが存分に発揮された作品集になっている。
『この紀行文は、1973年1月号から雑誌「旅」に1年間連載されたものである。私は犬神や風葬、鯨の墓などを訪ね、ノートと、2、3冊の書物を持って、あちこちと旅をしてまわった。そして、私自身を金田一耕助探偵になぞらえながら、自分の思いついた謎を、自分で解いてまわったのだった』
寺山のあとがきである。旅先でふと立ち寄った食堂の親父や農漁村の古老に聞いた伝承や呪術の謎解きを金田一探偵になぞらえて、ある時は詩人の想像力で、またある時は自身の過去の経験則、知識で挑むという趣向のエッセイである。たとえ、火星に人間が住めるようになっても、苔むした墓場の饐えた匂いは、どこからか忍び寄って来るだろう。林立するビルジングの間にひっそりとある地蔵尊のように、遠い昔から脈々と伝えられてきた不可解な話は、人間の心にある言いようの無い暗闇への入口である。入口の扉を開くか開かないかは自由だ。寺山修司は果敢にも扉を開けて、じめじめとした饐えた匂いのする世界を探検したのであった。
今では学校で禁止されているこっくりさんは、わたしの小学校高学年のころは流行っていて、わたしも参加したものだ。紙に縦横に線を引き中にひらがなを書いて、十円玉を載せる。三人ぐらいで人差し指を軽く十円玉の上にのせて、呪文を唱える。(この呪文がどういうものだか忘れてしまった) 誰それの好きな人の名前を教えろといえば、十円玉がスルスルとひらがなの上を滑る。実際にいるクラスの子の名前になるときもあるし、意味不明の言葉になることもあった。あれはいったいなんだったのだろうか。三人のうち、誰かが押しているのか、それとも本当に霊の仕業なのだろうか。神とか仏を蔑ろにしているわたしも、こっくりさんの思い出は気味の悪いものである。今では戯れにもやりたいとは思わない。実は、寺山はこっくりさんについても言及したいと考えていたという。しかしエッセイのプランに入れなかったようだ。どんな感想を持ったことだろう。
花嫁は 夜汽車にのって とついでゆくの〜
なんともドラマチックな旅立ちだ。海辺の街へ着いたら彼氏と小さな結婚式を挙げるのだろう。指輪はカーテンリングかもしれない。いいじゃないの、幸せならば…
しかし、幸せなのはそこまでかも知れない。明日から早速、炊事、洗濯、掃除の退屈な日が永久に続くのである。いや、ハロー・ワーク通いもしなければならない…かもしれないのだ。命かけた恋の代償がこれではなんとも寂しすぎるではないか。が、現実とはこういうものなのだ。
もうすぐオバアちゃんになってしまう 五十をチョットすぎた奥さんよ〜
が定番のコースである。
『なぜなら、どんなに長びかせたとしても、女の子が花嫁でいられるのは、「式の始めから終わりまで」のほんの数時間のことであり、あとの数十年は、妻か母になって暮すことになるからである。死ぬまで花嫁のままでいることができたら、どんなにいいことだろう』 一瞬の間だからいいとも言えるかもしれない。考え方次第だ。
結婚式というのも呪術に支配されている。むかし「新日本紀行」で日本各地の変った結婚式をやっていたものだ。しかし北海道から沖縄まで支配されている呪術は式の日取りである。大安に集中し仏滅に少ないのは暦の呪術にとらわれているからだ。迷信かもしれないが、『合理主義からでは生まれてこない無駄なものの中にこそ、文化が存在する』と寺山は分析する。
寺山が指宿のホテルに行ったときのことだ。(新婚旅行者を見物するために出かけたのである) 夜になって按摩を呼んだ。彼が新婚について語るところによれば、
「大体、新婚旅行に来て、あたしどもを呼ぶようなのは、離婚しますね」
二人でいても退屈もせず、話もなくならない新婚は按摩を呼ばないという。按摩を呼ぶのは、二人だけで居るのが気詰まりで、第三者に緩衝材になってもらいたいからだそうだ。すでに剣呑な関係だ。なぜ結婚式を挙げたのだろう、不思議だ。しかしこれが人生というものかもしれない…
寺山さんの結論は、
『私は結婚はきらいだが、花嫁と新婚旅行は好きだった。結婚には、日常性がつきまとうのでわずらわしいが、花嫁とか新婚旅行は虚構だからである』
これじゃ、ご都合主義だ。しかし言うのは勝手だから構わないのである。悪意のないご都合主義はよいではないか?
寺山修司が恋愛に関する各地の「迷信」を集めたから、ここに書いておく。これだけ実行すれば新婚旅行で按摩を呼ぶこともないだろう。
1 結婚祝いにはオツリをつけないこと。 (二度とないように) 鳥取地方
2 四、十違いの人と結婚してはいけない。 秋田地方
3 嫁を送り出したときには、必ず大戸をしめる。(帰って来ないように) 山梨地方
4 若い娘が自分から指輪を人にやると、縁が遠くなる。 長崎地方
5 花嫁と夫が足を洗うとき、たらいに二人で三本つけてはいけない。 京都地方
6 新婚でも、同じ部屋を二人で箒を持って掃除してはいけない。 北海道地方
7 縁談のときお茶を出すといけない。 秋田地方
8 八畳の部屋に嫁一人で寝ると大蛇になる。大分地方
9 嫁入りの帯を着物にすると、首がしまる。 福井地方
10 箒で人を打つと禿げの嫁をもらう。 島根地方
11 新竈の前で唄をうたうと火がもえない。 徳島地方
12 嫁は絶対にサルという言葉を使わない。 岩手地方
※
:「花嫁」、「主婦のブルース」より
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