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help RSS 小杉天外著・魔風恋風[前篇・上]

<<   作成日時 : 2008/07/25 23:38   >>

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「魔風恋風」・小杉天外著(岩波文庫) @

「魔風恋風」、作者自注によれば「明治36年2月起筆して、同年9月に渡り読売新聞に連載した小説」であるという。まず、小杉天外について簡単に略歴を記しておこうと思う。彼小杉天外は慶応元年の秋田生まれで、東京に出てきて英語の勉強をするかたわら斎藤緑雨の門に入った。明治30年に後藤宙外、島村抱月らと「新著月刊」を刊行。33年に「はつ姿」(岩波文庫に存在・品切れ中)35年に「はやり唄」、いずれもゾラの自然主義を受けた小説で文壇に注目される。「魔風恋風」は新聞小説として大成功を収める。以降通俗小説に転じる。画像
驚くべきは長寿であったことだ。没年は昭和27年9月1日。わたしは露伴でさへ相当な長生きだと思うが、昭和27年といえばすでに戦後派作家が華やかなころである。明治文壇に名を残した人がいたという事実、案外に明治は遠い時代ではないのかもしれない。
明治の長編小説のパターンとして悲劇のヒイロインものがある。尾崎紅葉の「金色夜叉」徳富蘆花の「不如帰」小栗風葉「青春」などで、いずれも社会の束縛から自由になれない女達の物語である。彼女等の不幸は自ら選択した(例えば「金色夜叉」の宮)部分もあるが、旧態依然とした封建制度の桎梏から来るものである。自由という概念が言葉上のことに過ぎなかったかを物語る。特に女子においては嫁にやる、もらう(現在でも使うが、より本質的な意味に於いて)などと物品の如く扱われていたのである。
女子の自立は社会制度との戦いでもあったのだ。平塚雷鳥の如く社会に反旗を翻した女子は稀で、多くは社会に埋没するしかなかった。これら小説に登場するヒイロインたちは自立を目差すも反旗を翻すというほどではなく、家庭的幸福を望む者である。しかし、それさえも多大な圧迫を社会から受けるのである。一つの悲劇から次の悲劇へ、悲劇の連鎖とでも云おうか、に巻き込まれた女達の物語である。以上四作はなんとか今日でも見ることが可能だ。八月には岩波で「江戸川乱歩短編集」がでるそうだ。乱歩は他の文庫で充実しているから今さらという感じだ。菊池幽芳の「己が罪」という悲劇長編がある。これなどもそろそろ文庫にしたらよいだろう。
以下は目次ごとに要約した。

記念会
帝国女子学院の創立十周年祝賀会の日である。都下の新聞は筆を揃えて盛大な催しを書きたてている。この時代は私学校の催しが新聞ダネになったようだ。のんびりしている。とにかく学校周辺はたいそうな賑わいである。そこに校門目差して自転車で駆けつける令嬢がいた。「髪は結流しにして、白リボン清く、着物は矢絣の風通、袖長けれど風に靡いて、色美しく品高き一八九の令嬢」とある。定番のお嬢様スタイルである。彼女こそは「魔風恋風」の主人公萩原初野(名前もお嬢様系)である。そこに書生が飛び出してきて衝突、二人とも投げ出されてしまった…

病院
大学病院の廊下で二人の看護婦がヒソヒソ話。今度来た別嬪の患者の噂に花が咲く。看護婦の話しによれば、初野は腕を折ったのみで他はだいじょうぶであった。…処女か否か話は続く。そこに十六七の美しい令嬢現れる。初野の友達(下級生)の夏本芳江が見舞いにきたのである。病室ではSらしき会話が。芳江の話しによれば入院は三週間かかるという。驚いた初野、早くも入院費用の心配が萌す。

下宿
下宿ではお主婦の島井もとが出入りの男、殿井恭一と花骨牌を打ち興じながら初野の噂話し。殿井恭一、二十四五歳。お主婦、初野を誉める。それに興味がわいた殿井、早くもものにしたそうな様子。
そこに下女のお兼、郵便を持ってくる。初野の兄※からであった。お主婦の顔色、悪くなる。 今まで通りの金額以外は、入院その他の費用(約六十円)は一切出さない旨が書いてある。お主婦、殿井を初野の部屋に連れていく…
※[ 兄萩原吉兵衛と初野は母が異なる。父はニ、三年前に他界。]

其の部屋
お主婦が見て戴きたいというものは自転車であった。これでも売れば下宿料の足しになるであろうかと。殿井、お主婦が制止するもお構いなく、初野の部屋を引っ掻き回す。そこに突然、初野、病院から帰宅。殿井とお主婦、驚いて殿井を外に出す。

入院料
場面変って、お主婦と初野、初野の部屋で話し合い。お主婦、殿井が金(五十円)を無抵当で貸す話をする。初野、知らない人がいきなり金の援助を申し出たことに、驚きもし訝る。初野、お主婦の説得で借りる方に傾きつつある。そこに殿井がやって来る。殿井と初野対面。取り敢えず金の件は保留。殿井帰る。

意外
初野、殿井の清廉な態度に金を借りる気持に傾く。赤門(大学病院)で三浦絹子(初野の一級下)と楠田友子(校長の従妹で算術の教師)に出会う。校長の見舞い料三円を貰う。楠田が帰ったのち初野と三浦、病室で東吾の噂話。
東吾は夏本芳江の許婚である。そこに看護婦表われ入院料の支払いが済んだ旨を伝える。初野驚く、いったい誰が…

子爵の養子
東吾の下宿では兄(東一)が金の無心に来ていた。そこに母が訪ねてきた。幾ばくかの金をもらい東一帰る。東吾は夏本子爵の養子である。東吾と芳江の結婚は芳江が女子学院を卒業してからの約束だったが、夏本家から東吾の卒業と同時に結婚式を挙げたい申し出があり。つまり来年から今年に早まったのだ。その話しを東吾の下宿に母親がしにやってきた。渋る東吾に母親、初野との関係を疑う。否定する東吾、結局は今年の夏に式を挙げる事を承諾して母親を安心させる。…東吾、初野に退院御めでたき旨の葉書をポストに入れるつもりで外へ出たが、何時の間にか初野の下宿へ。後ろから自分の名を呼ぶ声が、俥に乗った初野であった。東吾と初野、軽く話したばかりで、初野の俥そのまま行ってしまう。初野、何度も車上から振り返る…

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