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「魔風恋風」・小杉天外著(岩波文庫) A 畫工の部屋 殿井の下宿では二人の下女が皿を洗いながら殿井と初野の噂の真っ最中。殿井の旦那も女学生をね… 二階に初野が一人でいる。一緒に来たお主婦は席を外したまま帰ってこない。心配顔の初野。そこに殿井入ってくる。しばらくは世間話、殿井それとなく初野に男がいるか探る話をする。つにに殿井、「萩原様、」と云うが早いか初野の袂を捉えた。初野、引き離して次の部屋に逃げ込む。殿井も続いて… 同胞 お主婦、先に下宿に帰ってくる。初野の妹(波)が来ていた。夜も更けた頃、初野帰ってくる。お主婦ばつが悪いので初野に会わない。初野、部屋に波が寝ているので驚く。波、気づいて起き上がる。聞けば兄の仕打ちが酷いので家を出てきたという。その日は姉妹睦ましく寝る… 翌日、初野、殿井の申し出を断りたい旨をお主婦に話す。お主婦、初野から五十円と手紙を受け取る。そのとき初野に電報が… 郷里の兄からであった。それには「波、金持ッテ逃ゲタ、押ヘテ置ケ」! あらそい 殿井、こそこそと現れる。お主婦に手引きされて座敷に上がる。昨夜のことをお主婦に聞かれて、大失敗と答える。(管理人、ホッと安心!)お主婦、初野から託された手紙を殿井に渡す。初野の部屋では初野・波・兄が金のことで談判中。波、やはり実家から五十円を持ち出していたことが判明。手荒な兄に初野と波、訣別を宣言。 魂胆 殿井に呼ばれて島井もと(初野の下宿のお主婦)、殿井の下宿に駆けつける。殿井不在。婆やともと、初野と殿井の一件を噂している最中に殿井、下宿に戻る。殿井、初野が妹を学校に入れたこと、自転車を売ったこと、冬物を質屋にいれたことを早くもキャッチ。お主婦驚く。殿井、またお主婦に相談事の体。今度は妹の波に眼を付ける… (殿井という男、どこまでも卑しい奴である) 依頼心 場面:初野の下宿。(初野不在) 殿井とお主婦、波を呼ぶ。殿井、波に土産の時計を与え手なずけようとする。波によれば初野は波と下宿を出て卒業まで自炊するという。殿井、それを聞いて波に下宿を出ないようにする工作を授けるが初野にバレて失敗。初野、卒業までの学資を夏本芳江に援助を請う決心をする。 子爵家 夏本子爵家では呉服屋が来ている。芳江とその母が生地選びの最中。そこに初野やって来る。(芳江の母は東吾との噂で初野をよく思っていない) 芳江、学校を中退する話しをする、続きがありそうだが、初野に話題を転じる。一部始終を聞いた芳江、初野を残して母に談判に行くがYesの返事はもらえない。一人客間にのこされた初野の所へ縁側から夏本子爵が呼ぶ。初野の他、誰も居ないことを確かめると、子爵、別の部屋に来るよう初野を促がす。子爵夫人、とにかく初野に会ってからと客間に来たが初野はいない。とその時、奥の部屋から尋常ではない音が。 夫人、いきなり障子を開ければ、風の如く出て行く夫、続いて帯を結び直した初野が!事情を察した夫人、初野に悪態。初野も弁解する。ついに夏本家と初野、絶縁に… 大決断 翌日の初野の下宿。波に改まって話す。以下、二人では金が続かない、波は自分の卒業まで奉公に行ってほしい。自分は有る物を売ってなんとか卒業まで… 波、賛成する。姉妹で落涙。 どうもこうも酷い話しだ。まず郷里千葉県の実家、兄と初野の母が違う事が運命的に悪い。この兄という人物、吝嗇で学資として送った金で自転車を乗り回してるのが気にいらない。その自転車が転んで入院費をだせなどとはもっての他と断わる。初野の妹お波が金五十円を盗みだして初野の下宿へ逃げたのを幸い絶縁する。萩原初野という女学生、秀才で堅くて美形であるから学校外でも有名なのだ。 嗚呼!これがまた悲劇の元でもあるのだ。ついでに下宿住まいとくれば、なんとかものにしたいと思う男が現れても不思議ではない。殿井恭一や夏本子爵などは女の下半身を食い物にする獣である。なんとか難を逃れた初野であるが、これだけで傷物のレッテルが貼られるのは婦人の地位が低い証拠である。この小説の主人公萩原初野は自立を目標に学問に励んでいるのである。晴れて卒業したら女教師を希望している。明治という男社会の荒波に立ち向う女性を書いた点で新鮮だ。「金色夜叉」のお宮、「不如帰」の浪子にしても自立には至らない。 だいたいこの時代の女学生は卒業したら即結婚といパターンが多いようで女が学問するのは教養の域を出ていない。たとえば夏本芳江の場合はそうだ。自立のために学問をするのは新しい女である。 「魔風恋風」は会話の多い小説である。読者はあまり考える必要なくどんどん先に行ける。わたしは漱石などの面倒な心理描写などは一部インテリ受けで、大衆にはドラマチックな物語のほうが受けたのではないかと思う。新聞小説として次が心配でハラハラドキドキの展開は楽しみだ。服装やその他小間物の描写は細かい。色の見える小説である。大衆文学とか純文学とかの垣根がない作品だ。どちらにも含まれると思う。 わたしは「魔風恋風」を読むのは二回目で結末は知っている。今度は章ごとに細かく読んでみた。小杉天外はこれ一つだけを文学史に残したような感じがするのは気の毒だと思う。 「子爵家」の章で、夏本子爵が家に夫人も娘もいるのに、初野に手を出した設定は少しやりすぎだと思う。 いきなり自転車の転倒のシーンは暗雲を予感させるのに十分だ。この出だしは素晴らしいと思った。 次ページへ→B |
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