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国木田独歩著・運 命
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作成日時 : 2008/12/01 19:38
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「運 命」・国木田独歩著(岩波文庫)
(運命論者)・明治35年12月
鎌倉の滑川(なめりがは)で会った男の話。養子に行った先が、実は妹であった男の悲劇。男は呪われた運命と理解する。しかし、この男はやや精神が疲労しているようで、どこまでが事実かは判らない。近親相姦の問題を扱った点で斬新な小説だ。推理小説のよに謎解きで進んで行く。こういうことは、稀にあるかもしれない。独歩も有効な解決策は見いだせなかったのだろう。運命で片づけている。
(酒中日記)・明治35年11月
日記体の小説。大河今蔵、三十二歳、瀬戸の馬島で小学校長をしている。明治30年5月3日より同年5月15日まで。5/3には、《 「あの男如何なつたか知ら」との噂、よく有ることで、四五人集つて以前の話が出ると、消えて去くなつた者の身の上に、ツイ話が移るものである 》
実は、日記の最終日5/15翌日、水死している。この日記は、記者が帰省して旧友の小学校教員より見せてもらったものである。巻頭の言葉は運命の暗示だろうか。それとも偶然だろうか。虫の知らせというか、有り勝ちのことである。
「酒中日記」とは大河自ら付けた題である。筆を採る時は必ず酒を飲んだ後であったから。
実家は東京赤坂で実母と妹が下宿屋を開業している。大河と妻子は自堕落な母妹と合わず、流れ流れて瀬戸の小島にやってきたとう次第だ。母が酷い女で金の無心にやってくる。これが悪運の始まりであった。
なんとか、追い出したが、引出しの百円が無くなっている。これは母の仕業と実家にきてみれば、つれない態度。この百円は学校改築寄付の預かり金であった。流石に実母を警察沙汰にすることもできず、大河は島に帰ってくる。思案に暮れる大河、草叢に財布が落ちていた。中には三百円が!一先ず百円を拝借して、いずれ貯めて持ち主に返せばよいという心つもり。しかし、これを知った妻子は自殺した。
犯人が母で、妻子は大河の悪事に苦しんで自殺、これでは酒を飲まずにいられようか。不運な男である。
記者は大河がどういう男であったか知らない。日記に記されない部分もあると推測する。いかに内面の心理を切々と語った日記でも、書いた人間の小部分のみを知るのみである。日記に自分のすべてを書けるだろうか。書いた本人も知らないうちに、虚構を書いている場合もあるかもしれない。これは小説とは関係のないことだが。
(巡 査)・明治35年2月
とにかく人のよい、ある巡査をスケッチしただけのもの。小説とは言えないかもしれないが、ほのぼのとした感じが伝わってくる。本当にそれだけのものだけれど、よい感じの小品。
(馬上の友)・明治36年5月
珍しい話。野村勉二郎氏は海軍士官である。彼が公務で運送船備後丸に乗り込んだが、そこで会ったのは幼友達の糸井国之助氏であった。故郷で二人は糸井の父から馬を学んだ間であった。しかし、野村は勉学のため東京へ、糸井は事情があって故郷から出られない。一度はだけ手紙のやりとりをしたが、それっきりで音信不通。それが今日、ひょっこりと…。野村は海軍士官に、糸井は運送船の事務長になって再開。
《 今日僕が十年ぶりに此少年と備後丸で、大連湾で、再び出会し、そして二人の馬乗が、二人とも船乗になって居たといふことは!》 これもまためでたい話でよい感じ。
「畫の悲しみ」(明治35年7月)
、
「非凡なる凡人」(明治36年3月)
も同じような趣向の小説。
(日の出)・明治36年1月
《 「さうです。君の出られた学校です。三田ですか、早稲田ですか。」と高等商業の紳士は此二者を出じといふ面持ちで問ふた。》 …あゝ、、こんな古い時代から学歴信仰が延々と今日まで続いているのだな。慶応と早稲田しか認めないという高商(一橋)の紳士、こういう人、案外今でも多い。世間が狭い。
某法学士洋行の送別会にての話。こういう会ではきっと出る話、誰それはどこの学校出身であるかと。オックスホード大学、ハーバード大学、慶応に早稲田、帝国大学に高等商業の歴々が居れば当然か。(因みに独歩は早稲田)
さて、お前はどこ出身かと聞かれたのは、児玉進五と云って某新聞の経済部主任記者である。年のころ、二十七八、次の総選挙には某党より議員候補者になるべき人物である。
彼の答えは、故郷の大島小学校なりと云う。人々は笑うが、話を聞いてみれば、篤志家が「日の出を見ろ」の精神で建てたものであった。聞き終わって一同、大島小学校に感心するばかり。
学校は大とか小が、建物が問題なんじゃない、精神が問題なのだよ。心打たれる話。
(空知川の岸辺)・明治35年11月〜12月
独歩が信子と新婚生活をするために、北海道の空知川付近に土地の選定に単身赴いた時の思い出。北海道の自然を描写。まるで露西亜の小説に出てくるような感じで。この頃の北海道は、東京者から見れば異国の光景であったのは想像に難くない。
単行本「運 命」は明治39年3月18日神田富山町佐久良書房より刊行された。以上の他に、
「悪 魔」(明治36年5月)
を収める。本のタイトル「運命」という作品はない。これは「運命論者」の暗示である。
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