「江戸川乱歩傑作選」

「江戸川乱歩傑作選」(新潮文庫)

江戸川乱歩と言えば、あれである。
私はあれが気色悪くてたまらないのである。あれじゃなければいいと思うのだが。
あれと言っても解る訳ないだろう、と言われそうだが。春陽堂文庫の表紙である。
文庫、多しといえども春陽堂の乱歩集位、気色の悪いのはないと思う。あのグロテスクさがたまらないという方もいるのだろう。
最近、光文社から文庫版全集が出ているけれど、あの厚さは文庫の厚さではないし。
新潮社のは実にシンプルである。手元にあるのは、今のとはちょっと違うけれど、赤地に鎖と鍵と指紋が描かれている。私は二十歳過ぎに初めて乱歩を読んだせいか、あのゼンマイ仕掛けみたいなトリックに嫌気がした。それと私の中では明智小五郎=天地茂になっているのだ。これも嫌なものである。乱歩は初期の短編集が最高だと思うのだ。文章が文学作品の体をなしているからだ。私は数年ぶりに読んでみた。

「二銭銅貨」:トリックが出来すぎ。さんざん盛り上げておいて、大金が紙くずになるオチに好感。
「二廃人」:二老人の会話から過去の犯罪が暴かれる。会話による進行と芥川的オチ。無実の者が犯罪者に仕立て上げられる。本人も自分が犯罪者であることを疑わない。完全犯罪の模範。
「D坂の殺人事件」:ここの明智は紳士でない。むしろ金田一耕介のそれである。明智が犯人とどのような連想診断法による会話をし異常性愛者と見破ったか?その部分が省かれているのは残念!
「心理試験」:ラスコリーニコフみたいな犯人が初めから判っている。読者は犯人になって読めばよい。
明智再登場。完全犯罪が余計な一言で…。連想診断のくだりは見事。
「赤い部屋」:猟奇クラブで法に触れない殺人を九十九回したと語る男。百人目は?
「屋根裏の散歩者」:屋根裏の徘徊は妙案!明智の種明かしが強引だが…。
「人間椅子」:椅子の中にもぐりこみ、座った人間の感触を楽しむのを快楽とする変質者登場…。結末は「赤い部屋」と同じで。乱歩の騙しのテクニックはうまい。
「鏡地獄」:鏡に自分を映すことをこよなく愛する男。ついには内側が鏡になつている球体にもぐりこみ発狂。主人公はナルシスト、あるいは金属フェチだろうか。心の奥底に潜む奇妙な欲望を拡大させた秀作。
「芋虫」:乱歩の意図に反して反戦小説になっている。戦争の正体を暴いた作品ともいえよう。グロテスク、残酷趣味、恐怖、異常性愛が濃縮されている。乱歩の良い所がでた作品。

一度、使ったトリックは二度と使えないのが探偵小説である。通俗作品を書くようになったのも仕方ないかもしれない。こういうものを書きつづけたら今とは違った意味で評価されただろう。乱歩は裸電球の下で読むのがよい。深夜、小雨でもふっていれば申し分ない。






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この記事へのコメント

羊の皮を被ったヤギ
2004年12月19日 05:01
私が江戸川乱歩の作品に出会ったのは小学校の図書館でした。
その時期に明智小五郎や少年探偵団を読み漁っていたので、楽しめました。
あまりに昔のことなので内容はよく覚えていませんが、「芋虫」は、今でも強く印象に残っている作品です。
最近は読んでいませんが、江戸川乱歩の小説にある雰囲気が好きです。
マルジナリア
2004年12月19日 21:56
コメントありがとうございます。私も小学生の頃、読んでいたら懐かしい作品として記憶に残っていたことでしょう。「芋虫」は小学生には刺激の強い作品ですね。自分が…と思ったらゾクッとします。乱歩も初期のものは気に入っていたようで後に「犯罪幻想」という特装版を作っています。ちょっと前、復刻されましたが、あまりに高いのであきらめました。
ぶきおん
2007年05月11日 12:33
新潮文庫の「江戸川乱歩傑作選」はお得な文庫ですね。
読んだことのないタイトルがあるので読んでみようと思いました。
そういえばNHKの「その時歴史がうごいた」で江戸川乱歩をやるみたいです。忘れず録画しようと思っています。
2007年05月11日 21:55
なぜか一冊だけ新潮から出ているんですね。乱歩のエッセンスが詰め込まれた一冊だと思います。NHkの予告で見ました。時間があったら見ようと思います。あの蔵の中、入ってみたいです。仕掛があったら楽しいだろうな。^^

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