夢野久作著・少女地獄

「少女地獄」・夢野久作著(角川文庫)

アアア… イイ~・もっと、いじめてぇ~
ウウウッ― アアアア― 脳髄がこわれる~
うそつき少女にやられた… カ・イ・カ・ン!アアアア… 

久しぶりに夢野久作を読んだ。新刊書店で角川文庫を買ったのも久しぶりだ。わたしは角川文庫の新刊はあきらめてしまっているのだけれど、夢野久作の文庫は案外にないものだ。昔はたいていダブってあった物だが、めっきり少なくなった。米倉斉加年氏の装画が古きよき時代の角川文庫の面影を残している。度々は読みたくないけれど、ある日、ふと渇きを覚える作家である。夢野久作という作家、分類上は江戸川乱歩などと同じように探偵作家になる。画像が、神秘なる部分は泉鏡花に近いし、エロチックなる部分は谷崎潤一郎に近い作家である。探偵というより幻想作家である。乱歩や横溝正史は追う者と追われる者が知の競演を繰り広げるが、久作の場合は人間が本質的に持っている卑猥な部分を引っ張り出したような作風だ。この人の文章は特異だから嫌いな人もいるだろう。一言でいえば悪文の類に属するのではないだろうか。擬音がなにしろ多い。これだけで伝統的小説作法からつまはじきされる。しかし、文章家が嫌っている擬音を使いこなせた作家でもある。久作ほど音を使った作家がかっていただろうか。言葉では説明できない不気味な感じを表現したのである。ただ、使い方を間違えると稚拙になるので技巧が必要であろう。彼のあとを継ぐ者はいない。異端の作品群を書いた作家であることには違いがないだろう。

でででははは… 怪奇なせかいへへへ… ガガガァ~ ウギャ―

姫草ユリ子さんをご存知であろうか?なに、知らない!? 姫草ユリ子さんこそは現実と虚構の世界を行き来した人なのである。見栄っ張りは女性の特権とも言うべきものであって、男がこれをやると情けない。自信のない男に思われるのが精一杯のところだ。女性といえども、バレない程度にやるのがよろしいだろう。大きくやりたいのならば、虚構の世界を創ってしまうに限る。細大漏らさず、周到な準備と一線を越える勇気がいるのは言うまでもないことだが。彼姫草ユリ子さんは、神奈川県下横浜市に耳鼻科を開業する臼杵利平氏に雇われた看護婦である。腕前はたいそうなもので、さすがはK大学耳鼻科の看護婦をしていただけのことはある。K大耳鼻科の白鷹氏は臼杵氏と九州帝国大学耳鼻科の出身で、臼杵氏は白鷹助教授の後輩である。白鷹氏に姫草ユリ子はK大学で懇意であったというが…
『彼女がK大学耳鼻科、助教授の要職にいる人から如何に信頼を受けておったかと言う事を、具体的に証明したいばっかりの一片の虚構に過ぎなかったのであった』と臼杵氏は述懐する。
姫草ユリ子さんは、実在する白鷹氏とは別の白鷹氏をこしらえあげてしまったのである。電話の中にしか存在しない虚構の白鷹氏に奔走する臼杵氏。虚構の世界に遊び、虚構の世界に呪われた少女の物語だ。 「少女地獄」は三部作で「何でも無い」「殺人リレー」「火星の女」で姫草ユリ子さんの話は「何でも無い」である。これは騙し絵のトリックのようで一番できがよいと思った。「殺人リレー」「火星の女」は復讐たん譚である。新聞、書簡を縦横に使ったのは久作の得意とするところだ。「何でも無い」では電話を使ったところが新鮮だ。

ブ~ン・ブ~ン・ブ~ン、チャカポコ・チャカポコ・チャカポコ… ハハハハ…ハハハハ…

☆ 童 貞
太陽の熱が肌にピリピリ染み込む日であった。肺病のピアニスト(昂作)が眼の前の電柱に片手をついていた。「俺はここで、死ぬのかなあ…」 すると「…ネエ…チョイト…」と耳元で艶かしい声が囁いた。白地のワンピースを着流した令嬢であった。令嬢は昂作の掌に五十銭玉を握らせた。「…ねえ…立ちん坊さん。すみませんけど、このお乳車をズット向こうの電車通りまで押して行って頂戴な。…それから右へ曲がって、電車道をどこまでもどこまでも…水道橋のとこまで…ね…そのうちに私が追いつくから…ネ…」
この令嬢こそは小野原ノブ子、通称ラシャメン瑠璃子であった。毛唐を殺してめぼしいものを掻っ払って高飛びをしようとした女であった。お母車には変装道具が入れたあったのである。昂作にとってこの女との出会いがなんであろう。たまたま偶然に出くわした女に過ぎなかったのである。肺病に疲れた男には単なる見知らぬ通行人の一人であった。真夏の幻影を見たような短篇。

☆ けむりを吐かぬ煙突
南堂伯爵未亡人は機智と魅力の持ち主であった。子供のいない彼女は余生を公共のために使い尽くす覚悟であった。彼女の周りには彼女に共鳴する紳士淑女が集まり、新聞雑誌は彼女の写真・言葉・文書を競って載せた。未亡人の評判はたいそうなものであった。ここに一人の悪徳新聞記者がいる。彼は女学校や上流家庭の内幕を素破抜いて、恐喝するのである。彼は南堂伯爵未亡人に眼をつけた。南堂家の煙突は伯爵の死後できた物だが、煙を吐いた例がないという事実に気が付いた。別の方面から南堂家の不動産が担保に入りかけているという事実を知った彼は未亡人を恐喝し、面会することができた。そこで恐ろしき未亡人の裏の顔が暴露される事に。以下夫人の話より。
「…ね…そうして不良少年らしい顔立ちのいい少年を往来で見つけると、お湯に入れて、頭を刈らして、着物を着せて、ここへ連れて来るのが楽しみで仕様がなくなったの…もっとも最初のうちは爪だけ貰うつもりで連れて来たんですけどね。そのうちに少年の方からつき纏って離れなくなってしまうもんですから困ってしまってカルモチンを服ましてやったのです…そうして地下室の古井戸の中から、いい処へ旅立たしてやったんです。ここの地下室の古井戸は随分深い上にピッチリ蓋が出きるようになっていて、息抜きがアノ高い煙突の中へ抜け通っているんです。(以下略)」未亡人は手にかけた少年の爪を集めていたのである。変態趣味の持ち主であった。夫人は記者に短刀を渡し自分の殺害を請う。悪魔に魅入られた記者は… 女郎蜘蛛みたいな女の怪奇譚。

☆ 女坑主
△産党の九州執行委員長、維倉(いくら)太郎は、新張炭坑の女坑主、新張眉香子(みかこ)の所にダイナマイトニ箱を無心にやってきた。眉香子は維倉のグループのイギリス軍艦爆破計画に賛同しダイナマイトを提供しようと申しでる。が、眉香子と警察は繋がっており、あっさり維倉達は捕まってしまうとい筋。虚無主義同志のブルジョワとプロレタリアの騙しあい劇。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック