サン・ピエエル作・ポオルとヴィルジニイ

「ポオルとヴィルジニイ」・サン・ピエエル作/木村太郎訳(岩波文庫)

18世紀の仏蘭西島(現・モーリシャス共和国)での恋愛と悲劇の物語り。「私」が島の老人から聞いた話である。「仏蘭西島のポオル・ルイの背後に聳える山の東側に、かって開墾されたことのある土地があって、そこに二軒の小屋の墟(あと)がある」 老人によると二十年程度前に、二組の幸福な家族が住んでいた。「私」は、それが何故荒廃したのか、興味を持った。老人は記憶の限り話始める……
二組の家族を説明すると、まずド・ラ・トゥウル夫人一家で、かって夫人はノルマンディー生まれの青年と恋をした。しかし夫人は貴族の娘、青年はそうではなかったために、夫人の両親に反対されて、ひそかに結婚して仏蘭西島にやってきた。夫は農園経営をする計画で、マダカスカルに黒奴を二三人買い入れに出かけたが、ペストに罹って死んでしまった。夫人は身重で、たった一つの財産である女黒奴のマリイと土地を耕して食べていこうと決心する。
もう一組はマルグリト夫人一家で、夫人はブルタアニュの生まれの、賤しい百姓の娘であったが、近所に住む貴族の愛を受け入れて、結婚の約束をした。しかし貴族は自分の欲望を満足させると、彼女を捨ててしまった。マルグリト夫人は故郷を去って、仏蘭西島で僅かの金で手に入れた黒奴のドマングと土地を耕して食べていた。
生まれた子供は男の子でポールと言う。
ド・ラ・トゥウル夫人は、子供に乳房を含ませているマルグリト夫人と出会って、お互いの境遇に同情し、家族の付き合いを始めるに至った。二軒の小屋の墟(あと)は、言うまでもなく二組の家族が、かって住んでいた。やがてド・ラ・トゥウル夫人は女の子(ヴィルジニイ)を生む。以上が物語の背景で、行く々々はポールとヴィルジニイを結婚させるつもりであった。二人の子供は兄妹のように育って行く。
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「欧羅巴の人達は、小さい時から、幸福に反く非常に多くの偏見で頭が一杯ですから、自然がこれほどまでの智慧と喜びとを与へるものだといふことを到底考へることが出来ません。あなた方欧羅巴人の心は、人間の知識の狭い圏(わ)の中に閉じ込められてゐますから、直きに人為的の快楽で行き詰ってしまひます。けれども自然と人間の心は汲めども尽きないものです」「二人の生活は、恰度牧神や森の妖精の生活のやうに、草木の生活とすつかり結びついてゐるやうでした。二人は母達の生涯のそれの外には歴史の時代を知らず、果樹園のそれの外には年の数を知らず、他の人に善い事をしてやり、神様の御旨に従ふことの外には別段難しい理屈を知りませんでした」
仏蘭西の文化とか文明への批判が、ポールとヴィルジニイで挿話は省くが、人を疑ったり、嫉んだりしない人間に成長した。また慈悲深く、人を出し抜いたりしない。ルソーの「エミール」を思い出す。ただ、汚辱の社会の経験がないだけに、ガラパゴス諸島の動物の如く、騙されやすい点を指摘して置かねばならない。
途中を端折って、ド・ラ・トウゥル夫人の伯母から手紙が来る。それによると、「もう一度仏蘭西へ帰って来て欲しい、けれども、もしそんな長旅をすることは健康が許さないならば、せめてヴィルジニイだけでも送って寄越すやうに。そしたら立派に教育もしてやるし、宮廷で縁組もさせてやる。財産もみんな譲ってやる。自分の云ひつけさへ守れば、もう一度自分の姪として、どんなにでもお前のために尽して上げよう」とあった。夫人はド・ラ・トウゥル氏と結婚するとき、伯母は冷酷であったので、生涯頼らないことに決めていた。しかし聴罪司祭に説得されてヴィルジニイが行くことになった。ポールは反対したがヴィルジニイの決心は固かった。一番の大きな理由は遺産相続である。

巴里での生活。ヴィルジニイは、一年以上も経ってから手紙を寄越した。なぜなら文字を覚えるだけでも一仕事だったからである。それによると、伯母に修道院の寄宿学校に入れられた。学問は楽しいものではなかった。しかし伯母は季節ごとに新しい着物を作ってくれたりして、親切であった。ポールは巴里で新しい恋人が出来やしないかと心配で、悶々とした日を送っていた。1744年12月24日の夜明け方、沖に船が現れた。船を調べに行った水先案内人によると、サン・ジェラン号と云って、沖合に停泊しており、明日の午後風の具合がよければ、ポオル・ルイに投錨するという話であった。水先案内人の持ってきた手紙のうちにヴィルジニイのがあった。それによると、伯母は相続権を取り上げ、恰度暴風の季節に仏蘭西島に到着するよう送り出した。水先案内人の船に乗って来ようと思ったが、船長に浪が高いため反対された。一同、ヴィルジニイが戻ってきたので大喜びをした。が、翌日は嵐であった。山のような大波に船は呑み込まれてしまった。二組の家族は黒奴も飼い犬も意気消沈して次々と死んでいった……
あまにりも似合いのカップルは近親相姦と同じように、神の怒りに触れるのかもしれない。



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